「酒は百役の長」というように、アルコールには仲間とのひと時をより楽しいものにしたり、一人のリラックスタイムに深い安らぎを与えたりする効果があります。しかし、そのアルコールも量が過ぎると体の健康だけでなく、お口の健康にも悪影響を及ぼします。
今回は、アルコールがもたらすお口の健康へのリスクやお酒を楽しむための注意点などを詳しく解説していきましょう。
過剰なアルコール摂取が歯の健康に与える影響
日常的にアルコールを過剰に摂取することは、むし歯や歯周病、さらには歯を失うリスクの増大につながります。例えば、週に450g以上のアルコールを摂取する人はそうでない人と比べて、歯が20本未満になるリスクが男性で1.2倍、女性では1.6倍に増加するという研究結果があります。さらに女性の場合は、完全に歯がない状態になるリスクが3倍に増加することも指摘されています。
ただし、週に450gのアルコール摂取は500mlの缶ビールで約23本分に相当することを考えると、やや極端なケースと言えるでしょう。
しかし、過度な飲酒がむし歯や歯周病などの発症に悪影響を及ぼすことは、国内外の様々な研究によって裏付けられています。
これらのデータからも、アルコールにはお口の健康にとってマイナス面もあることは間違いないようです。
酒によるお口の中の変化とその影響
過度なアルコールの摂取がむし歯や歯周病、歯を失うリスクを高めてしまう要因に、以下の点が考えられます。
・唾液の減少によるお口の乾燥
お酒を飲みすぎた時や二日酔いの朝に喉がカラカラに乾いたり、お口の中がネバネバして不快に感じたりすることがあります。これは、アルコールの利尿作用によって体内の水分が減少してしまうためです。体の水分が減ってしまうと唾液の量も減少するため、おのずとお口の中が乾きやすくなります。
唾液には口内を洗い流して清潔に保つ作用がありますが、アルコールを過剰に摂取するとこの自浄作用がうまく働かず、口内に細菌が増殖しやすくなります。
・糖分の摂りすぎ(ダラダラ食べ・ダラダラ飲み)
長時間にわたる飲酒では、お酒のおつまみにチーズやスナック菓子、チョコレートなどを口にすることも多くなります。また、近年はフルーツ系やデザート系といった糖分を多く含む甘いお酒も人気を博しているようです。このように、お酒を飲むと糖分の摂取量が増えてしまう傾向があることも、むし歯や歯周病のリスクを高める要因の1つに考えられます。
・歯磨きがおろそかになる
酔って帰ってくると、お風呂に入ったり歯を磨いたりするのも億劫で、そのまま布団に入りこんでしまうことも少なくありません。また、酔いにまかせて歯を磨いてしまうと、普段よりも磨き残しが多くなります。1日ぐらいであればそれほど大きな問題にはなりませんが、それが毎晩、毎週続いてしまう飲酒習慣は要注意です。
・酸性度の高いお酒による「酸蝕症」のリスク
歯の表面を覆う「エナメル質」は体のなかで最も硬い組織といわれていますが、酸に弱く、酸性度を示すpH(水素イオン濃度)が5.5以下になると溶けだします。
アルコール飲料の中には、エナメル質を溶かすほど酸性度の高いお酒も実は少なくありません。例えば、ワインはpH2~3、酎ハイはpH3前後、ビールはpH4前後といずれも歯が溶けるpH値を下回ります。このような酸性度の高いお酒を日常的に摂取すると、その酸によって歯が溶ける「酸蝕症」のリスクが高まります。
次回は飲酒量と健康リスクについて詳しくご紹介いたします。