歯や歯ぐきの病気のなかには、痛みなどはっきりした症状がないまま、静かに進行してしまうものも少なくありません。「歯周病」はその代表的な病気の1つですが、実はもうひとつ、見逃されやすい病気があります。それが、歯の根っこの先に膿の袋ができる「歯根のう胞(しこんのうほう)」です。
今回は、この歯根のう胞について、原因や症状、早期発見のポイントなどをご紹介します。
「歯根のう胞」ってどんな病気?
「のう胞」は体の中にできる袋状の病変で、袋のなかには膿や血液、古い細胞などが溜まっています。お口の中でも様々な場所にのう胞はできますが、なかでも多いのが「歯根のう胞」という、歯の根っこの先にできる膿の袋です。
歯根のう胞はあごの骨の中にできるのう胞の中でもっとも頻度が高く、全体の50~60%も占めるといわれています。大人の歯(永久歯)によく見られ、子どもの歯(乳歯)にできるのは非常に稀です。知らないうちに進行していることが多いため、定期的な検診で早めに発見することが大切です。
どんな歯に歯根のう胞はできる?
歯根のう胞は、歯の神経が細菌に感染し、根っこの先に炎症が広がる「根尖性歯周炎(こんせんせいししゅうえん)」という状態が長引いたときに起こりやすくなります。根尖性歯周炎の段階で適切な治療を受けていれば問題ありませんが、放置すると歯根のう胞へと発展し、あごの骨にまで影響を及ぼしていきます。とくに、次のような歯は、歯根のう胞ができるリスクが高いため注意が必要です。
・治療されていない深いむし歯
むし歯が進行して歯の神経まで達すると、神経が壊死し、細菌感染が根の先まで広がります。この状態を長く放置すると、根の先に膿がたまってのう胞を形成します。
・根の治療(根管治療)が不完全な歯
治療を中断した歯
根管治療が不十分だと根の中に細菌が残り、それが原因で根の先に炎症が起こりやすくなります。
・強い衝撃や外傷を受けた歯
歯に強い衝撃が加わると、歯の神経が壊死してしまい、それが原因で歯根のう胞になる場合があります。見た目上は問題がなくても、歯の内側で病状が進行していることもあるため、転倒や事故などで歯をぶつけた経験のある方はとくに注意が必要です。
気づきにくい症状と進行のサイン
歯根のう胞の厄介なところは、「症状がないまま進行する」という点です。初期のころは痛みや違和感もないため受診のタイミングを逃してしまい、病状が進行してしまうケースが少なくありません。また、定期検診や他の治療でたまたま撮ったレントゲンで偶然発見されるケースも多くみられます。
しかし、そのままのう胞が大きくなると次のようなサインがあらわれます。
・歯が浮いたような感覚
歯がしっかり固定されていないような、浮いたような違和感を覚えることがあります。
・噛んだ時に軽い痛みや違和感がある
食べ物を噛んだときに、特定の歯に鈍い痛みや違和感を覚えることがあります。
・根の先あたりの歯ぐきが腫れている
のう胞が大きくなって骨を圧迫すると、歯ぐきの一部がぷくっと盛り上がって見えることがあります。
・歯ぐきに小さな穴があいて、膿がでてくる
膿が外に出ようとして歯ぐきに通り道をつくり、歯ぐきに小さな穴があいて膿が排出されます。
もし、これらの症状に心当たりがある場合は、早めに歯科医院で診てもらうことをおすすめします。とくに「過去に治療した歯が気になる」という場合は要注意です。
次回はこれらの状態を放っておくとどのようなリスクがあるのか詳しくご紹介いたします。